Part2:『橋渡し』でつくりだす小さな変革。ICU PRISMの加美山紗里さんにインタビュー
Happy LGBTQ+ History Month!
インタビュー第11弾 Part 2では、Part 1に引き続き、ICU PRISMで活動するジェンダーアクティビスト・加美山紗里さんにお話を伺いました。
Part 1では、紗里さんのICU PRISMでの活動内容、活動を始めるきっかけや、活動を通して目指す「橋渡し」の役割についてお伝えしました。
今回のPart 2では、紗里さんがアクティビズムに興味を持ったきっかけ、紗里さんにとっての「学生団体」、活動のやりがいや社会へのメッセージをご紹介します!
Q8.紗里さんは高校生の時からアクティビズムに関心があったそうですが、それは何がきっかけでしたか?
高校生の時に海外セレブ雑誌でフェミニズムに関する記事を見つけたのがきっかけだったと思います。高校生の時に私は勉強が好きではなくて夜遅くまで洋画を見ていたんですが、それで英語圏の文化に興味を持ちました。海外セレブ雑誌のフェミニズムの記事の中では、キラキラした女性たちが自分たちの権利を主張していて、その姿に憧れを抱きました。それは私が女子校で「おしとやか」でいることが良しとされていたからだと思います。そして同時期に東京医大の不正入試問題がニュースになったので、そのようなことが重なって問題に対して声を上げることや社会運動をすることに前向きになりました。
Q9. ジェンダーに興味を持ち始めた時と今では考えや関心に変化はありますか?
今振り返ると、私が見たセレブ雑誌で特集されているフェミニズムは、インターセクショナリティ(交差性)がもとになっていないな、と感じます。受け入れられやすい白人、シスジェンダー(出生時に与えられた性別と性自認が一致している)、異性愛の人々の主張ばかりが特集されているので。最初はキラキラした女性たちの主張する姿に憧れてジェンダーに興味を持ちましたが、だんだんと男性中心社会における男性視点からの女性に対する評価や分析に興味を持つようになりました。そのことが、今取り組んでいるミスコンのインタビュープロジェクト企画に繋がっています。自分の「特権」に自覚している人達はどうして、どのような目的でミスコンやミスターコンに出場するのかを知りたいと思っています!
Q10. どんな時にやりがいを感じますか?
1つ目は、友達やイベントで会った人からポジティブなフィードバックをもらった時です。
私がすごくうれしかったのは、「きっと誰かを勇気づけたり誰かの考えるきっかけになってる」という言葉や、「ストーリーや投稿をきっかけにジェンダーに興味を持った」という言葉です。自分の見えない場所で、誰かをエンパワーしてたり小さなアクションを起こす(例えばジェンダーに関する単語を検索するとかが)きっかけになってたりするのなら、それはICU PRISMが続いている意義だなって思います。
2つ目は、コミュニティがより広くより深い層になってきていることが実感できた時です。ICU PRISMは今年の春からメンバー20人の大所帯になったのですが、5人だった時は仕事を均等に配分してみんなで1つのプロジェクトを行う形でした。でも今はメンバーの中で、新しいプロジェクトを立ち上げてもいい、興味を持ったプロジェクトに参加するのでもいい、ただジェンダーに関する他のメンバーの情報共有を享受するのでもいい、何もしなくてもいい、というように、一人ひとりがやりたいことをできるようなコミュニティとなっています。ジェンダーを学んでる人や興味がある人って少なからず社会で生きづらさを感じていると思うんですが、そんな人にとってICU PRISMというコミュニティ自体がセーフスペースになればいいなと思っています。そして自分にとっては、間違いなくセーフスペースになっています。メンバーのジェンダーに関する知識は限られているかもしれないけれど、ICU PRISMには受け入れてくれるインクルーシブな環境や、「これってどうなの?」って思うようなことがあった時に一緒に勉強して話し合える環境が自然にできあがっているんです。
Q11. 紗里さんにとって「学生団体」とは何ですか?
こうなったらいいな、こうしたい、という個人の思いは、どん詰まりしてメンタル面でも続けていくことが大変です。でも同じ目的を持っている人と活動することは、モチベーションになり、活動の幅も広がります。
でも今の私が思うのは、「学生団体」が必ずしも活動に特化していなくてもよくて、活動もしくはセーフスペースのどちらか片方の役割を担っているだけでもいいということです。今のICU PRISMのメンバーは同じ目的に縛られていなくて、何かを変えたい人、ジェンダーに興味がある人などが集まっています。私も最初は同じ目的を持って活動することを重要視していましたが、今はメンバーにとってこのICU PRISMのコミュニティがセーフスペースになっていればいいな、と思っています。ゆるく活動していくことも大事だと感じます。
Q12. 活動してわかったこと、気がついたこと、ぜひICU生に知ってほしいことは何ですか?
1つ目は、「いい感じ」のフェミニズムに甘んじたくないということです。最近、表面的なフェミニズムやジェンダー表現が増えてきているように思います。もちろん、「いい感じ」のフェミニズムは、フェミニズムが受け入れられなかった時代に、生き延びるための戦略の1つだったと思うので、それ自体を批判するつもりはありません。ただ、聞こえの良い言葉やビジュアルで大衆の心を掴むことを目標にすると、資本主義やメディアでの男性中心主義、異性愛規範をはじめ批判すべき構造の変革どころか、加担してしまうこともあると気付くべきだと思うんです。例えば、マスカラのCM。#強くていいんだ っていうキャッチコピーで、一見フェミニズムの要素の入った新しい女性像の提唱かと思いきや、後半で男性がその女性像を肯定しています。「男性に評価されるため」という無意識の感覚が抜けていないんだと思います。ジェンダーの視点を取り入れてはいるけれど、結局は従来の構造に甘んじた「いい感じ」のフェミニズムでしかないと思いました。
2つ目は、大きく変えることはできないということです。社会の制度が変わっても、価値観を変えることは難しいです。でも何か大きなことが起こらないと変わらないというわけではなく、ICU PRISMの発信や存在が目に見えない小さな波紋を広げていけると思っています。存在自体が変革の基盤なのかなと。私たちは、何らかの性別を持って生きている以上、ジェンダーに無関係で生きることはできません。「ふつう」を学び見直すことはジェンダー学の根幹で、自分のいる社会を見直すと、あたりまえだったことは社会的な構築物だと気づかされます。今の「ふつう」が壊され、新しい「ふつう」がつくられ、「ふつう」という概念のマイノリティへの暴力性は存在し続けるけれど、加害者側に立つ人々に多様な価値観のあり方を伝え、その構造を可視化することが大事だと思います。そして最終的にその構造を壊していくことも。こういったパラダイムシフトが重なることで、「ふつう」の暴力が少しでも減るのではないかと思っています。
Q13. 社会に訴えたいこと、伝えたいことはなんですか?
どれだけ制度が変わったとしても、それを司る権力や人々のマインドセットが変わらない限り、その制度は虚構であり続けるということを伝えたいです!それはジェンダー問題にかかわらずですが、制度が変わって実際に人々に浸透して価値観が変わるまでにはすごく時間がかかります。例えば、100m走のスタンディングスタートからクラウチングスタートに完全に変化するまでには約100年かかりました。日本で本当に性別による不利益がなくなるにはそのくらいか、もしくはもっと長い時間がかかる気がします。ジェンダーは、社会構造を俯瞰して見ることによって、今起きている大小問わずの差別や不利益の根元を可視化する学問なような気がします。ジェンダーを色々な議論の視点に入れるのはとても大事なことなのではないでしょうか。
今はジェンダーを学んでいる人が異分子みたいになっていますが、人を傷つけないために、自分を苦しめないために、ジェンダーはみんなで学んでいきたいな、とも思います。私自身、女性らしくいることを強要された経験があり、女性らしくないことで起きた不利益や、反対に女性らしくいることで起きた不利益を、自分個人の所為にしてきました。でも、今はその経験を再定義する中で、そうではない、と気づきました。この不利益は個人に起因する問題ではなく、社会構造による問題だと。自分の中に内在化されている考えの基盤を外して、再定義していくことも重要だとぜひ社会に伝えたいです。
Q14. これからやっていきたいこと、挑戦してみたいことなどがあれば、教えてください!
私が個人的に挑戦していきたいことですが、オンラインジェンダーコースを作ってみたいなと思います。ジェンダー学を学んでいる中で、ジェンダーの問題や構造を可視化できるのが楽しいと思えるようになったんです。イラストが得意なのでイラストなどを交えたビデオを作成し、ジェンダー問題に関して伝えている映画などを提示することでわかりやすくジェンダー学べるようにしたいです。学生や社会人を含めた若者を対象に、TwitterやYoutubeを使って、ぜひ今年中に始めたいと思っています!他にも、生きづらさを可視化して浄化できるようなアートも作っていきたいです。
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