起業家の“夜明け”をサポートするーARUN Seed代表の功能聡子様にインタビュー


インタビュー第29弾では、社会的投資を通して起業家を支援する団体、ARUN Seedの代表であるID 87の功能聡子様にお話を伺いました。

「社会的投資」という言葉、みなさんご存知ですか?

21世紀の新たな投資のあり方、そして途上国における起業支援について深くお聞きしました。

ぜひ記事をご覧ください!


目次


Q1. ARUN Seedさんはどのような活動をされていますか?

 大きく2つあります。1つ目が社会課題をビジネスで解決しようとする起業家を発掘し、投資で支援する活動、2つ目が社会的投資という新しい文化を普及し広げる活動です。

Q2. 具体的にどのような活動ですか?

①社会的投資の実践と②普及啓発の2本の活動に軸を置いています。①としては、

起業家を発掘するために、ビジネスコンペティション(CSIチャレンジ)を実施し、ビジネスコンペティションの優勝者に対して、社会的投資を行っています。投資の資金は、クラウドファンディングで集めたり、スポンサー企業樣などからのご支援を受けたりしています。投資を行った企業に対しては、事業の運営状況を財務と社会的インパクトの両面からモニタリングし、経営者の相談に乗ったり、必要なサポートを行ったり(伴走支援)しています。また、現在はアジア(インド、インドネシア、バングラデシュ)の企業に投資をしているので、彼らの事業を日本で紹介し、日本企業と結びつけることなども行っています。今までは2年に一回のペースでCSIチャレンジを開催していたのですが、これからは毎年企業への投資ができればいいなと考えています。②としては、社会的投資の新しい文化を広げるために、自治体、企業、学校などと協力して、講座や講演会を開催したり、研修を行ったりしています。

 _社会的投資の特徴を教えてください

 そもそも投資というのは事業の成長を見込んで資金を出資することを指すのですが、従来の投資では、リターンとリスクがそれぞれどれくらいあるかという2軸で、投資するか否かを判断していました。一方、社会的投資では”社会的なインパクト”という3つ目の軸を取り入れました。どのくらいその事業が社会課題を解決するインパクトを持ち合わせているのかや、他の事業やビジネスでは対象になっていないところを対象にする新規性も判断基準の材料にしています。

 _投資する範囲はどのくらいですか?

 社会課題と一口に言っても、その範囲はとても幅広く、ビジネスの種類、領域、大きさもさまざまなものがあります。例えば環境に関心があるとしたときに、大きな発電事業で脱炭素化をはかる事業や、廃棄物をもとにエネルギーを作り出すといった大きなビジネスもあれば、身近なところで環境問題に関係する規模の小さなビジネス、スタートアップ企業も存在しています。その中でARUN Seedは、スタートアップ段階の企業をサポートしています。事業領域としては、主に環境と貧困に関係する事業を行う企業に目を向けています。新型コロナウイルス感染症の影響で女性の失業率や女性が家庭内暴力にあうケースが増加したり、コロナ禍の経済状況の悪化が男女の経済格差の増大や女性の差別につながっていることから、今年はジェンダーを大きなテーマとしてフォーカスしています。

 _投資の実例がありましたら教えてください。

 2年前にインドネシアの企業で、インドネシアの女性3人で立ち上げた会社へ投資を行いました。フローレス島、という首都のジャカルタから遠く離れた島にあるのですが、彼女たちは女性の貧困問題を解決しようと事業を始めました。この地域は元々、農業が中心の産業で、現金収入を得るために男性が出稼ぎに行くようになりましたが、収入源が少なく生活は不安定でした。女性は副業として椰子の葉っぱを使った伝統工芸品の生産をしていましたが、それも収入にはばらつきがあり、生産計画も販売計画もありませんでした。そこで、こういった産業の種を安定的なものにして、女性の貧困を解消することを目的として事業を始めたのです。BtoB向けのプロダクトとして企業向けに販売したり、大手家具屋であるIKEAでの販売、さらに、零細企業が在庫管理・会計管理を簡単にできるようなアプリを作成しています。

 _支援する人々の年齢層はどれくらいでしょうか?

 起業家の年齢は幅広いですが、今投資しているところは30~40代が多いと思います。

Q3.ARUNseedの活動はいつ始められましたか?規模やスタッフ数はどれくらいでしょうか?

 パイロット事業(Social Investment Fund for Cambodia)を2009年の初めに開始し、2009年12月にARUN合同会社を立ち上げました。創業メンバーは5人で、そこに出資してくださる方が100人強いる形で事業を運営しました。並行して、普及啓発を主に担う団体を別法人(一般社団法人ARUN Lab)で立ち上げて、それが後のARUN Seedになり、2014年にNPO法人化しました。現在は常時20人ほどのメンバーが活動していて、有給のフルタイムのスタッフが2人と、ボランティア、インターンをしている学生・社会人など、様々な人が関わっています。

 _ARUN Seedの名前の由来はなんですか?

 “ARUN(アルン)”はカンボジア語で「夜明け」という意味です。新しい社会を作っていくという希望とエネルギーと、1日の始まりに感じる希望とエネルギーを掛け合わせた意味でつけました。

Q4. 活動を始められたきっかけをお聞かせください。

 大学を卒業し、ARUNを立ち上げる前に10年ほどカンボジアで国際協力の仕事をしていました。皆さんはJICAはご存知でしょうか。国際協力機構という日本の政府開発援助の実施機関ですとか、日本のNGOの現地駐在員、また世界銀行で仕事をしました。どれも、1970年代80年代と内戦の時代が長く続いたカンボジアの復興・発展のための支援の一環であり、実際にカンボジアに住んで仕事をしていました。最初は2年の予定だったんですけれども、結果的に10年現地にいることになり、カンボジアの社会の変化を目の当たりにしました。その中でカンボジア人の社会起業家との出会いがあり、そこで新しい起業家の動きを応援したい、と考えたのが社会的投資を始めたきっかけです。

 _ 始めた時はどのような心情でしたか?

 新しいことを始めるワクワク感、希望を感じました。

Q5. 新しい事業を始められた中で苦労されたことはありますか? 

 ずっと大変です。今でも大変です(笑)中でも資金集めが一番大変ですね。社会的投資と聞いて、今皆さんはどう思われるでしょうか。2009年当時は、経済的リターンと社会的インパクトの両方を目指す、と言っても、それよくわからない、という反応がほとんどだったんですね。投資なら投資でお金を儲けるべきで、支援であれば社会課題の解決だけを目的として慈善事業として行うべき、どっちかにしてください、という反応がとても多かったんです。だからこそ私は社会的投資を”新しい文化”というふうに呼んでいるのですが、単にお金儲けのための投資ではなくて、社会を良くするための事業に対する投資です。さらにビジネスにとって時間はお金のように価値があるものですが、社会的投資では収益化するまでにはとても時間がかかります。そこを長い目で見て、投資をする「忍耐強い投資」(Patient Capital)という新しいカルチャーを理解していただくのがとても大変でした。

Q6. 援助と投資の違いを教えていただけますか?

 ”投資”はビジネスに対して資金を投じて、そこからの金銭的なリターンと社会的なインパクトがある双方向のものです。”援助”といった場合には、基本的には与える側と受ける側が存在し、先進国が途上国に援助をする、といったような形で使われます。しかし、現地で活動していて、援助のような一方通行の関係に限界を感じました。復興・発展している国の結果的には自立(現地の人々がエンパワーされて自分たちで立ち上がっていく社会)を目指しているのですが、「与える」という形だとその援助が終わったらまた元の状態に戻っていってしまいます。なかなか自律に繋がらないというジレンマを感じたんですね。そこでビジネス(投資)という手法を使うことによって、実際に事業に携わる現地の方たちが人から与えられるものを受け取るだけでなく、自分達自身で運営していくという気概、オーナーシップを持って動き出すことができるというダイナミズムに魅力を感じました。

 _企業支援をしていくにあたって、日本人が日本企業をサポートするのと、途上国の企業をサポートするのでは違いはあるのでしょうか?

 違う部分と同じ部分があると思います。起業家と投資家の関係、という意味では、あまり違いはないのではないでしょうか。基本的に事業を運営するのは起業家です。投資した後も、運転席に座るのは起業家であって、投資家が事業をやっていくわけではありません。私たちは、そこに投資することでリスクを負いながら、伴走支援していく、運命共同体になる。そういう意味では、日本でも海外でも変わらないと思います。ただ、企業を取り巻く状況に関しては、いろいろ異なることはあると、私も考えています。

Q7. どのような時にやりがいを感じますか?

 ビジネスって、なんでもそうだと思うのですがいい時と悪い時があります。その良い時も悪い時も知ることができるのが投資の一つの醍醐味だと思います。単なる支援というと支援される側は良いところを見てもらいたいと思うでしょうし、こちら(支援をする側)も良いところを見たいと思うじゃないですか。投資の場合には、何が起こっているのかをしっかり分析していないと、上手くいかなかった時に投資したお金が全てなくなってしまうことになります。良い話を聞くことよりも、事実を知ることの方が大事なんです。実際に投資家として財務のデータもいただくので、業績はどうなのか、これから事業がうまくいきそうなのかがわかったり、予測したりできるんですよね。このように実際の状況を知ることができるのが投資の特徴です。そして、その上で、こうなってほしいという未来に向けて邁進する事業を起業家と共に創造することができるというのが投資の醍醐味です。

Q8. 活動を通した気づきや、ICU生に伝えたい事があればお聞かせください。また、ICU生におすすめの本などがありましたら教えてください。

 のびのびとなんにでも挑戦していって欲しいなと思います。私のICU時代に卒論の指導教官(生物)であった先生の年賀状の言葉を紹介します。

「After you’ve done a thing the same way for two years, look it over carefully. After five years, look at it with suspicion. And after ten years, through it away and start all over. Alfred Edward Perlman (1902-1983), Railroad executive」

先生は毎年、その年の気になる言葉を印刷して送ってくださるんです。上記の言葉の下には、

「できるなら私も今から何かを始めて、十年後そうできるように元気でいたい。」

という教授ご自身のコメントも添えてありました。もう80才後半の先生なんですよ!すごくないですか?80歳過ぎても新しいことに挑戦しさらに10年後への意欲を持っていらっしゃることに感動しました。今のICU生の皆さんにはもっとのびのびといろんなことに挑戦してほしいなと思います。

Q9.社会に伝えたい事、訴えたい事はどのような事でしょうか?

 ARUNを始めるときに、私自身は金融の仕事に関わったことがあるわけではなかったんですね。なんでその状況から事業ができたのかというと、一つは仲間がいたこと。そしてもう一つは、ヨーロッパでシュタイナー学校をつくりたいと考えた市民が銀行を立ち上げたという事例を読んで、どんな人でも社会のためにできることがある、銀行さえもつくれる、ということに気づきました。誰もが、社会をよくするためにできることがたくさんあります。投資も金融も市民の手に取り戻すことができる、自分たちの未来を自分たちでつくることができる、新しい文化を創りだせる、という希望を持ってほしいと思います。それから、先ほど社会的投資に対して怪訝な反応をされる人が多かったお話をしたのですが、わからないこと、知らないこと、初めてのことを怖がらない、一歩を踏み出す勇気がもっとあれば良いのになとも感じています。

Q10. 今後、挑戦されたい事がありましたら、ぜひお聞かせください。

 私たちの運営体制はまだまだ不十分なところがあるので、もっと持続的な運営基盤を作っていきたいです。また、誰もが参加できる社会的投資のサステナブルな仕組みづくりを整えていきたいと思っています。事業に関しては、元々日本と途上国の双方向の関係性を作りたいと考えていたので、そのようなチャネルを作っていくことができればと思っています。そして、それを学生の皆さんと一緒に実現したいと思っています。社会的投資の活動に関心を持たれたら、ぜひARUNに遊びにきてください!

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